その音が消える前に、君へ。




時間を忘れるようにして望遠鏡を覗きこんでいると、肩を叩かれる。


振り返ればそこには榊くんがいて、ココアを差し出してきた。



「そんなに夢中になってくれるとは予想外だった。見てて楽しい?」



「楽しいっていうか、なんだろう我を忘れていられる感じがする」



ココアを受け取りながら思ったままの感想を述べると、榊くんは小さく笑った。



「菅原さんって時々面白いこと言うよね」


「笑いを求めて言ってるわけじゃない」


「うん、知ってる」



見透かすようなその返答に、またしても声が詰まるような感覚になる。


そんな私にはお構いなしのように榊くんは問いを続けて投げてきた。



「どんな風に我を忘れるの?」


「……私達は、人間という種族に生まれながらも、人とは違う一種の生き物。普通を目指して生きてるけど、絶対普通にはなれない。でも、今も昔もこの星を眺めていたマイディアント達は、この世界で生き抜いてきた。だから、私達がいるんだなって」


「マイディアントの血を恨む?」


「昔は確かにこの力が憎かった。でも、いらないって何度願っても消えることはなかった」



普通の人は違う、そのレッテルが気になって気づいた時には――この檻の中にいた。