その音が消える前に、君へ。




「菅原さん、どこか具合でも悪い?」



心配そうに見つめてくるその表情に、その声に飲み込まれていく。


小さく首を横に振ると、私の手を掴んでいた榊くんの手が離れた。


その温もりを感じたくてもう一度手を伸ばそうかと思った瞬間、パサリと肩に何か掛けられた。



「昼間は暑くても、夜は少し冷えるからそれ羽織ってて」



優しくそう言うと、再び私の手を取って歩き出す。


そんな彼の温もりを感じながら、うるさい鼓動を鎮めようと必死に戦った。


掛けられた羽織から微かに残る榊くんの温もりが伝わってくるのが分かる。


どうしたんだろう、本当に私夏バテでおかしくなってるのかもしれない。



『榊 絢斗!彼との淡い恋!』

『夏休み入る前から、少しずつ興味惹かれてたでしょ』

『ここに来てからも、自分では意識してないかもだけど目で追ってること多いんだよね~』



違う、そんなんじゃない。


絶対に違う、だって私は榊くんの音が……



「よし、着いた」




唐突にそう言った榊くんの声にはっと我に返ると、そこには小さなテントが立てられそのテントの横には立派な望遠鏡がどっしりと居座るようにしていた。