その音が消える前に、君へ。




道なき道を突っ切って行く榊くんに、本当に大丈夫なのかと心配になっていると遠くから水の細流が聞こえてくる。


月明かりがそっと足元を照らし、虫達の演奏会を聴きながら少し歩くと視界が開けた。



「わあ……」



視界に飛び込んできたその景色に感嘆の声を漏らさずにはいられなかった。


小さな川が月明かりを浴びながら、キラキラと輝きゆったりと流れている。


ただそれだけに感動したのではない。


そこを飛び交う蛍の群れが、綺麗な灯のように光を放っているこの光景が幻想的で、異世界にでもやってきたのではないかと錯覚してしまう程だった。


ただ眺めているだけ、胸が熱い。


その熱が全身に伝わって鼓動を速めていくのが分かる。


こんなにも心が動かされたのはいつぶりだろうか。


呼吸をすることさえも忘れてしまう程、この光景が私の心を揺れ動かしていく。



「昼間の反応以上に驚いてるね。大成功」


「榊くん……ここ……」


「蛍達の大都会ってところかな。水が綺麗な場所にしかすめない彼らの絶好のオアシスなんだよ」



そう言って、私をリードしながら歩く榊くんは優しい笑顔で蛍達を眺める。