ブレーキをかけながらゆっくりと電車が目の前で止まり、榊くんは私からそっと離れた。


その目に映る私はいつもと違う私が映っている。



「行ってくる」


「行ってらっしゃい」



ベンチに置いてあった荷物を手に取り、開いた扉が榊くんを乗せるとゆっくりと閉まろうとする。

その扉に向かって叫んだ。



「さか……絢斗くん!!ちゃんと生きて!!」



そう伝えると電車は動き出し、どんどんと私達の距離を離していく。


もう声は届く事もなく、触れることもできない。


それでも私は、心は、絢斗くんで満ち溢れていた。


裏切りを犯しても、私は寧ろ私を取り戻したようなそんな気がした。


電車の姿が小さくなっていく中でも、ちゃんと絢斗くんの音が聞こえてくる。


教えてくれた、絢斗くんの音は私の中で生きている。