でも向こうに行くからこそ、榊くんの命は助かる。


だったら約束を守るために、私はこの住み慣れた街で待つ。


何年先であろうが、私はここで榊くんを待つ。



「先進国の最先端の医療技術で俺は必ず帰ってくる。紗雪が生きていられることを教えてくれたから尚更頑張って治療を受けてくる」


「大丈夫、榊くんは絶対に大丈夫だからっ」


「紗雪」



遠くから電車が走ってこの駅へとやって来る音が、聞こえてくる。

時間がとうとうやってきたと分かり、離れたくない気持ちが湧き出てくる。

名前を呼ばれてしっかりと榊くんを見つめていると、唐突に掴まれていた手を離して榊くんの両腕が私の背中へと回った。

そしてそのまま私は榊くんの胸へと飛び込む形となる。



「これが俺の音。本物の俺の音」



顔に触れる榊くんの胸から聞こえてくるのは、榊くんの心音。

どことなく早く動くその心臓に、私も榊くんの背中に腕を伸ばした。

心地いい榊くんの温もりと、ちゃんと聞こえる生きているその音。



「私ちゃんとここで待っているから」


「俺もちゃんと帰ってくるから」



互いの存在を確かめ合うように、しっかりと抱きしめる。


幸せと切なさが混ざり合うそんな感情が、今は心地いい。