BIRD KISSーアトラクティブなパイロットと運命の恋ー

「よかった」

 閉まったドアに向かってぽつりと零す。

 一段落した直後、はたと後方で寝ている祥真を思い出した。

「は……隼さん、隼さん! お仕事中ですよ!」

 触れていいものか迷ったが、当初五分程度と言っていた時間を過ぎてしまっているため、肩を揺すった。

 すると、突然手首を掴まれる。

「ひゃっ」

 さらに引き寄せられて、バランスを崩した。
 危うく自ら祥真に覆いかぶさるところ。それをどうにか堪えたものの、距離が近くてドキドキする。

「あ、あの……フライトの時間は大丈夫ですか?」

 握られた手は解放されず、微妙な距離から身動きが取れない。
 中腰で前屈みになった体勢だと、彼の端整な顔が間近にあった。

 男性だというのに、綺麗な肌をし、睫毛は長く生えそろっている。月穂が見惚れていると、祥真の睫毛がゆっくりと上を向いていき、隠されていた黒い宝石のような瞳が露わになった。
 
 至近距離で見つめ合っていると、どうしても彼の唇の感触を思い出してしまう。
 心臓が口から飛び出しそうだ。

 月穂がそんなことを思っていたときに、祥真のもう片方の手がふわりと浮いた。すらりとした指で、月穂の乱れた前髪をそっと直す。
 その行為は、ついさっき自分も眠っていた祥真にしたことだ。

 もしかして、あのとき起きていたのでは。
 
 そんな不安が過った瞬間、祥真が口を開いた。

「今日はもうフライトはないから。デブリーフィングだけ」

 祥真は月穂の腕時計を見て言った。

「デブリーフィング……あ……打ち合わせみたいなものですか? 今は二時半になるところです」

 彼はただ時間を知りたくて腕時計を見ようとしたのだとわかると、月穂は胸を高鳴らせていた自分が滑稽で心の中で嘲笑った。

 全部、自分の思い込み……勘違いだ。

 冷静になれ、と言い聞かせるものの、祥真の手が離れた後も、彼の感触や体温が残っていて、鼓動は収まるどころか速くなっている。

 彼を意識しないようにすればするほど意識して、目を合わせることもできない。

「ありがとな」
「いえ……」

 月穂がまともに顔も見れぬ間に、祥真は颯爽とカウンセリングルームを出て行ってしまった。