廊下からリビングを覗き込むと、頭にタオルを被った祥真が視界に入る。

「シャワーありがとうございました」

 月穂はなんとなくリビングに入れず、廊下から上半身を出すだけ。

 祥真はタオルを首にかけながら、月穂の元にやってくる。そして、再びじっくりと見つめられる。

 祥真に至近距離で見られると、それだけでものすごく緊張してしまう。

「ああ。服着れたんだ。よかった」

 べつに深い意味があるわけでもないとわかっているのに、彼の視線にまだ心臓が鳴り止まない。
 こんなふうに、男性の部屋に入ったのが初めてということもあるだろう。

「あっ、はい。ウエストは紐をきつく絞って……。隼さんの足の長さを実感しました」

 月穂はやや声を裏返しながら、どうにか平静を装って答える。

 仕事ならふたりきりでもちゃんと目を見て話をすることができるのに、場所や状況が少し違うだけで過剰に意識してしまい、顔すらまともに見られない。
 頻りに視線を動かしていると、祥真が笑いを零した。

「ふ。本当だ」

 一度吹き出して言い、その後も声を押し殺すように笑っている。

 どうやら、月穂の幾重にも折ったようなスウェットの裾がツボに入ったようだ。確かに月穂もスウェットを履いたときに、ぶかぶかすぎてまるで子どもになった気分だった。

 あまりに可笑しそうに笑い続けるから、だんだん恥ずかしくなる。

 月穂はうっすら頬を赤くして口を尖らせた。

「だって隼さん、すごく背が高いから……って、それよりも隼さんも急いでお風呂へ行ってください。風邪ひいてしまったら大変です」

 話の途中でハッと気づき、慌てて浴室へ促す。

「うん。じゃあ俺もちょっと行ってくる」
「……はい」

 祥真が立ち去っても、彼の屈託のない笑顔が頭から離れない。

 そのせいで、なかなか動悸が止まない。
 月穂はそーっとリビングに足を踏み入れ、気分転換するべくカーテンの隙間から空を見た。