BIRD KISSーアトラクティブなパイロットと運命の恋ー

「なっ、なにが……」
「雨だ」
「えっ!」

 祥真の声の直後、雨粒がぽつぽつと頬や身体に当たる。月穂は咄嗟にパソコンを抱き抱えた。

 そのとき、月穂は腕をグイッと引かれ、反射で祥真を見上げた。

「いつ止むかわからない。ひどくなる前に移動しよう」

 彼は言い終える前に、黒い雲の下へと踏み出した。

 二歩、三歩と歩数を重ねる度、月穂はついていくのに必死だ。身長差もあれば、歩幅も当然違う。それでも祥真についていけたのは、彼が腕を離さなかったから。

 次第に雨脚が強くなり、月穂はいつしか俯き、ただ祥真にリードされていた。
 走ること約五分。ようやく建物の中に入り、ホッと息をつく。視界を広げていくと、そこは駅ではなくてマンションだった。

 祥真は雨で滴る髪を掻き上げながら、月穂を振り返る。

「読みが甘かった。駅よりうちのほうが断然近いからと思って……悪い。大丈夫か?」

 月穂はシャワーを浴びたあとのように髪を濡らし、スーツの色も濃く変わっていた。決して大丈夫ではない出で立ちだ。けれど、月穂はニコッと口角を上げる。

「はい。パソコンは無事そうです」

 安堵した表情で、濡れずに済んだカバンを見る。そんな月穂に、祥真が呆れ声を出した。

「パソコン無事でも、大和さんが無事じゃないだろ。うちに寄ってから帰ったほうがいい」
「そんな! 平気ですよ」
「その格好で電車に乗れないだろ。タクシー使うしても、そんなに濡れてたらたぶん乗せてくれないと思うし」

 祥真の言葉になにも返せなかった。
 下を向いて自分の姿を見ると、靴の中までぐっしょりと濡れている。たかが数分間のことだったのに、不運と言うより仕方がない。

「すみません……」

 月穂は申し訳ない気持ちでいっぱいになりながらも、祥真の厚意に甘えるしかなかった。