BIRD KISSーアトラクティブなパイロットと運命の恋ー

約三十分後。ふたりは品川駅で降りた。月穂は偶然にも降りる駅が祥真と一緒だったことに驚きつつ、彼の背に着いて歩く。

 駅が一緒だったといっても、月穂はいつも品川駅で山手線に乗り換えるだけであって、品川駅周辺を歩くことはほとんどない。

「ちょっとだけ歩くけど」
「大丈夫です。私この辺り、初めて歩くので新鮮です」
「そう。俺はもう見慣れたな」

 どうやら祥真の家は品川駅付近らしく、辺りを見回す月穂と違ってスタスタと歩き進める。

 十分程度経ったところで、祥真が足を止めた。後ろにいた月穂は、すぐ横の喫茶店を眺めながら言った。

「ここですか?」

 月穂は店の入口に置いてあるブラックボードに目をやる。一番上には『café soggiorno』と書かれていた。

 きっとこれが店の名前なんだろうと思いつつも、月穂はその文字を正しく読むことができなかった。

「そう」

 祥真は振り返ることなく答えると、店のドアを引いた。同時に、カランというドアチャイムが鳴り、奥から「いらっしゃいませ」と声がした。
 月穂は少し距離を取って、店内に足を踏み入れる。

「ご注文お決まりになりましたらどうぞ」

 若い女性店員が笑顔で言うと、祥真はすぐに「キリマンジャロを」と注文する。どうやら、この喫茶店にはよく来ているのだな、と感じつつ、月穂も続いて注文をする。

「私はカフェラテをお願いします」

 いつも外食のときなどは、どちらかというと優柔不断な嫌いがある。けれども、今日ばかりはすぐに注文することができた。

 ラテアートの話をしたから、ここに連れて来てもらったのだ。
 ならば、選ぶものはひとつしかない。

 店員が「かしこまりました」と礼をすると、祥真は窓際の席へ移動する。
 なにも言われない月穂は、おずおずと祥真の後を追った。