「ああ、いいですね。コーヒーにはリラックス効果があるみたいですから。あの挽きたての香りは本当に頬が緩みます」
月穂は瞼を閉じてコーヒーの匂いを想像し、深呼吸をするようにゆっくり鼻で息を吸った。
「あと、ラテアートのお店は一度しか行ったことがないんですけれど、あれも笑顔になっちゃいますね」
おもむろに祥真を見上げたときに、電車がホームへやってくる。祥真が先に車輌に乗り込み、続いて月穂がステップに足を乗せた。
祥真の隣に腰を下ろすと、再び緊張し始める。
自分の膝の上の手だけを見ていたら、祥真が言った。
「よかったら行く?」
祥真の誘いをしばらく理解できず、放心する。
ただ祥真を見つめた。
「その店、ラテアートも人気みたいだから」
月穂は未だに言葉が出てこない。
祥真の透き通るような薄茶の瞳に吸い込まれ、目を見開く。
電車のドアが閉まり、発車と同時に揺れた衝撃でようやく我に返る。
咄嗟に口から突いて出たのは、「はい」というひとことだった。
いつもの月穂なら、この状況で考えることと言えば、『遠慮したほうがいいかも』とか『なにか相談したいことがあるのかも』などというものだろう。でも、そんなことが浮かぶ間もなく誘いを受けたのは、彼に興味を持っていたからだ。
とはいえ、社交辞令であろう誘いにふたつ返事で答えてしまうなど、とんでもない。
月穂は慌てて言葉を繋ぐ。
「でも、あの……本当にいいんですか?」
「いいんじゃない? 店は客が増えたら喜ぶだろうし」
「は、はあ……。じゃあ、お言葉に甘えて……」
あっけらかんと答えられると、自分が慎重になりすぎているのかと思う。
(深い意味があるわけじゃない。私が気にしすぎなんだ)
月穂は心を落ち着けようと、向かい側の窓を眺めていた。しかし、いくら景色に集中しようとしても、意識は隣の祥真へ向き、心臓は跳ねる。
いつもなら心地のいい電車の揺れに睡魔が襲ってくるのだが、今ばかりは眠気も吹っ飛んでいた。
月穂は瞼を閉じてコーヒーの匂いを想像し、深呼吸をするようにゆっくり鼻で息を吸った。
「あと、ラテアートのお店は一度しか行ったことがないんですけれど、あれも笑顔になっちゃいますね」
おもむろに祥真を見上げたときに、電車がホームへやってくる。祥真が先に車輌に乗り込み、続いて月穂がステップに足を乗せた。
祥真の隣に腰を下ろすと、再び緊張し始める。
自分の膝の上の手だけを見ていたら、祥真が言った。
「よかったら行く?」
祥真の誘いをしばらく理解できず、放心する。
ただ祥真を見つめた。
「その店、ラテアートも人気みたいだから」
月穂は未だに言葉が出てこない。
祥真の透き通るような薄茶の瞳に吸い込まれ、目を見開く。
電車のドアが閉まり、発車と同時に揺れた衝撃でようやく我に返る。
咄嗟に口から突いて出たのは、「はい」というひとことだった。
いつもの月穂なら、この状況で考えることと言えば、『遠慮したほうがいいかも』とか『なにか相談したいことがあるのかも』などというものだろう。でも、そんなことが浮かぶ間もなく誘いを受けたのは、彼に興味を持っていたからだ。
とはいえ、社交辞令であろう誘いにふたつ返事で答えてしまうなど、とんでもない。
月穂は慌てて言葉を繋ぐ。
「でも、あの……本当にいいんですか?」
「いいんじゃない? 店は客が増えたら喜ぶだろうし」
「は、はあ……。じゃあ、お言葉に甘えて……」
あっけらかんと答えられると、自分が慎重になりすぎているのかと思う。
(深い意味があるわけじゃない。私が気にしすぎなんだ)
月穂は心を落ち着けようと、向かい側の窓を眺めていた。しかし、いくら景色に集中しようとしても、意識は隣の祥真へ向き、心臓は跳ねる。
いつもなら心地のいい電車の揺れに睡魔が襲ってくるのだが、今ばかりは眠気も吹っ飛んでいた。



