BIRD KISSーアトラクティブなパイロットと運命の恋ー

 祥真も帰宅するというのなら、自ずとどちらかが降りる駅まで一緒だ。

 彼がどこかに寄り道でもするならば別だが、そうでないのなら、今から三十分近く彼とふたりきり。
 それを考えると緊張してしまう。

 仕事だったら平気なのに、今はなんだか真っ直ぐ目を見ることができない。

 祥真の顔を見て話をしようと何度も試みた。しかし、彼の高い鼻先までで目線が止まる。
 
「電車がない時間帯とか、フライトまでに余裕が持てなそうな場合以外は」

 内心パニック状態の月穂とは反対に、祥真は落ち着いている。
 月穂もなんとか平静を装い、笑顔を作った。

「そうなんですか。なんとなく意外でした。車とかタクシーなのかな、と」
「現実的に、毎回タクシーなんて使ってたら出費がかさむだろう。車は禁止されてはいないけれど、神経を使うフライト前後に車の運転なんてしたら疲れる気がして」
「なるほど。電車ならボーッとしてても目的地に着きますもんね」

 素直に感心し、つい心の声がぽろっと口から零れ落ちる。
 瞬間、月穂はハッとした。

「あっ。私、今失礼なこと言いましたね。すみません!」

 月穂は自分の失言に大きく狼狽え、足を止めた。祥真は月穂を振り返り、「ふっ」と笑う。

「そう。ボーッとしたくなるから、ちょうどいいんだ」

 月穂は柔らかく目を細める祥真を瞳に映し、しばし見惚れていた。

 祥真は普段からほとんど笑顔を見せず、凛々しい表情が多い。
 だから、今みたいなふとしたときに見せる〝隙〟に、ドキリとさせられる。

 その動悸は収まるどころか、止まない。

 月穂は自分の異変にいっぱいいっぱいで、会話も思い浮かばない。
 そうこうしている間に駅に着き、月穂は祥真と並んでホームに立った。

「いつもどこにも寄らず、真っ直ぐに帰宅ですか?」

 正面を見据えたまま質問すると、彼もまた前を見たまま返す。

「明日から二日間休みだし、今日はちょっと寄り道してコーヒーでも飲んで帰ろうと思ってる」

 苦し紛れの話題だったが予想外に話が広がり、月穂は安堵して顔を綻ばせる。