BIRD KISSーアトラクティブなパイロットと運命の恋ー

月穂がやんわりと答え、時間を稼ごうとした。そのとき、両手を取られ、さらに引き寄せられる。

 前傾姿勢になって、祥真との距離は鼻頭を掠めるほどになった。
 あまりの近さに慌てふためく月穂に、祥真はきゅっと手に力を込めて言う。

「思ったことはすぐに言わなきゃって、つい最近学んだことだから」

 真剣な眼差しに、瞬きもできない。
 彼はスッとした切れ長の目を細める。

「月穂がここにいるってなったら、俺飛んで帰ってくるよ」

 祥真の発言に月穂は緊張感も忘れ、思わず笑いが漏れる。

「ふふ。祥真はまさに飛んで帰ってきますもんね。世界中の空を」

 飛行機に乗っている祥真を想像して顔を綻ばす。

「俺はあちこち行かなきゃならないから、ひとりにさせることも多いと思うけど……」
「大丈夫ですよ。祥真がいろんな場所へ飛んで頑張っているぶん、私はいつも同じ場所で待って迎え入れますから」

 遠くなればなるほど、会える時間は少なくなる。フライトには常に危険が付きまとう。

 それでも、祥真には空を飛び続けてほしい。
 そうなりたいという願いを叶えた彼を、空を仰ぐたびに感じられるから。

 そして、いつか自分も思い描いた自分にきっとなれる、と背中を押してもらえる。

「それはOKと受け取っていい?」

 祥真の問いかけに、ゆっくりと口に弧を描く。

「どうぞよろしくお願いします」

 もしかしたら、頑張りすぎて顔を上げる余裕もなくて、空の色が何色なのかさえ見えなくなるときもあるかもしれない。

 だけど心の中にいつも彼がいる。

 それでも心が揺らいで落ち着かないこともあるだろう。

 そのときは、まず彼の帰りをここで待って、抱き合ってキスをしよう。


 END