花田の言う看護師に乃々が浮かんだ。

 月穂がUAL社に来なくなるという内容のメッセージ以降、ピタッと連絡は来なくなった。
 それまでかなりアピールしてきていたのに、と乃々への不自然さを感じていた。

 乃々の名前を出そうかどうしようかと考えていると、花田の奥二重の目が祥真に向けられる。

「私は彼女にこう返したわ。どうして『すぐに』助けてもらえたって知っているのって。そしたら、その子は青褪めた顔で怯えた目を向けてきた」
「どういうことですか」

 話の雲行きが怪しくなり、とうとう祥真は思い切り顔を顰めた。
 花田を正面から見据えたが、彼女は難なく視線を交わし、足を踏み出した。ヒールをコツコツと数回鳴らし、祥真を横切ったところで止まる。

「おかしいでしょう? 大和さんを助けたのは別の看護師よ。それを見ていて身を潜めていたのなら、その場に出られない理由があったはず。そうじゃなきゃ、看護師だもの、すぐ駆け寄るでしょ」
「っていうことは、怪我の原因はその看護師……」

 祥真は花田を振り返り、抑揚のない声で独り言のようにつぶやいた。
 背を向けていた花田はくるっと軽快に振り返り、深刻な表情から一転、微笑を見せる。

「私はそもそも大和さんがなにかを隠しているのは知っていた。あの子、嘘をつくときの癖があるのよ。本人は気づいてないんでしょうけれどね」
「癖?」

 再び祥真の眉間に皺が寄る。

 相手がカウンセラーだからなのか、独特な話術を駆使されている気がした。
 話が見えないのに興味を引かれたり、内容が繋がりそうなところではぐらかされたりしているようで、ペースを乱される。

 案の定、花田は祥真が繰り返した言葉はないものにして話を続ける。