「うん。だから、家まで送ってくよ」
「えっ。いや、いいですよ! せっかくだからゆっくりして……」

 ついに振り返ってしまい、祥真と目が合うと頬を赤く染め、声を萎ませた。
 目を泳がせて徐々に下を向いていくと、ぽんぽんと頭に手を置かれる。

「そんなに意識されるとこっちもなんか気恥ずかしいって。それに足怪我してるんだし、無理はしないほうがいい」
「……はい」

 やっぱり自分に比べ、祥真は大人だ。

 二十代半ばの女が男性と一夜明かしただけで、まるで学生のように狼狽えるだなんて。彼は失笑するどころかちょっと呆れているかもしれない。

 普通の女性とは違う自分に一抹の不安を覚えたときだ。
 不意に祥真が月穂の前髪にキスを落とす。

「ていうか、怪我関係なくても俺には甘えてよ」

 月穂は前髪を押さえ、つぶらな瞳を祥真へ向けた。
 祥真は春の空のように穏やかな微笑みを見せ、Tシャツを被る。目のやり場に困っていた月穂は、ホッとして肩の力を抜いた。

「パイロットになった一番の理由はさ。小さい頃に漠然と鳥になりたいって思ったからなんだ。笑えるだろ?」

 祥真は眩しそうに朝日を眺め、突然そう言うと苦笑した。
 月穂は祥真と肩を並べ、驚いた表情をし、「そうなんですね」と答えた。数秒後、白い歯を見せる。