「月穂にも必要ない」

 滲んで揺れた瞳に祥真を映し出す。
 祥真は茫然とする月穂をまっすぐ見つめ返し、再び口を開いた。

「俺が君のお守り(それ)になる」

 月穂の中で風が舞った。
 立ち込めていた暗雲を一瞬で蹴散らし、泣きたくなるくらい青い空が広がる感覚を抱く。

 気持ちはまるで、力強い祥真に手を引かれ、重力さえも感じさせずに宙を浮かんでいるみたいだ。

「俺じゃ力不足?」

 月穂は意識を現実に引き戻し、ぶんぶんと首を横に振った。
 自分の反応にうれしそうに頬を緩める祥真を見て、浮いていた気持ちがドキドキと暴れ出す。

「なに?」

 月穂がなにか言いたげなのを汲み取って、祥真が首を傾げて尋ねた。

「そんなの……わ、私にはもったいないくらいの話で……」

 まだどこか夢心地だった。
 今日祥真から電話が来たときからずっと、時折『これは夢なんじゃないか』と自分に言っていた。

 だけど、自分を見つめる彼の切れ長な目や、艶のある声、大きな手の熱がもたらす衝動は決して夢なんかではない。
 こんなに胸が熱くさせられるのは、すべて現実のものだと本当はわかっているから。

 おどおどとしていると、祥真の温かい両手が月穂の顔をふわりと包んだ。

「遠慮されても簡単に引く気はない。月穂が少しでも変わりたいって思うなら、俺はその力になりたいんだ」

 そっと上向きにさせられ、動揺の色を浮かばせた瞳を覗き込まれる。

「月穂に不安なときには話を聞くし、自信が持てないときには全力で支える。そばにいるときには、こうして抱きしめる」