「本当は聞いていたんだ。この間カウンセリング室でうたた寝をしていたとき、偶然やってきた小田機長の話を」

 祥真が白状すると、月穂は見る見る目を大きくさせた。

「彼は常務停止を言い渡されてから、別人のようになって……まるで死んでいるようだった。あんなに覇気があった人なのに」

 あのとき、小田とはどんなやりとりをしただろうか。

 困惑して冷静になれない。

 なにか、知られてはいけない情報など口にしていなかったかと焦る。
 ずっと小田を気にかけていた祥真を思うと、小田の現状を知ってどんな感想を抱いたのか気が気じゃない。

 月穂は息を顰めるように、祥真の言葉を待つ。
 緊張の色が濃くなった月穂の顔を見て、祥真はにこりと目尻を下げる。

「俺なりに心配して声をかけたこともあった。でも、どうにもできなかった。それを君は小田機長の心に寄り添い、数週間で立ち直らせた」

 祥真の瞳は、感動、感謝、崇拝……というような、歓喜に満ちたものだった。

「彼の光を取り戻してくれた。君が小田機長を救ったんだと感じた。だけどそれは、カウンセラーだからではなく、常に一生懸命で前を向いている大和月穂だったからだと思ってる」

 そんなのは買い被りすぎだ。

 月穂は絶賛されるものの、まったく素直に受け止められない。

「そんな大袈裟な……。小田さんもご自身の力です」
「いや。俺もそうだ。君と話していると、まるで心の中に青空が澄み渡る。まるで太陽みたいな……いや、月か」

 触れられている頬が熱い。膝の上の手もいつからか汗ばみ、胸は高鳴っている。
 祥真の濃い色の瞳に捕まって、身動きができない。

「――月穂」

 ドクン、とひと際大きな脈を打つ。