「正解は……〝怖い〟」

 月穂は言葉を失った。
 ピンチのときは颯爽と助けてくれて、仕事にも冷静な祥真が――声を震わせた。

「君の連絡先を聞いておけばよかった。もっといろんな話をすればよかった。金曜日も、ストーカーだと思われたってマンションの前で君が出てくるのを待てばよかった」

 こんなにも冗舌になることにも驚いたが、それよりも内容に意識を奪われた。

 祥真から多く零れ落ちる単語は『君』。

 月穂は自分のことだと納得するまで、多少の時差があった。

 彼はクールで、なににも執着しない。
 そう思っていたから。

 祥真は月穂に両腕を回したまま、微動だにしない。
 まるで、『誰にもあげない』とでもいうように、ぎゅっと力強く月穂を抱きしめる。
 それは、恐怖心を跳ね退けようと強がっているようにも思えた。

「そういうこと全部、出来なかったままなのかって思ったら……怖くなったんだ。怖いだなんて一度も感じたことのなかったこの俺が」

 祥真がぽつりとつぶやいたことにハッとした。
 月穂もニュースを見たときに、まったく同じことを思っていた。

 ……そして。

「そのくらい、君に会いたくて仕方がなかった」

 最後まで気持ちがぴたりと重なり、胸が熱くなる。自然と目に涙が浮かび、祥真の背中に手を回していた。

 祥真は月穂に抱きしめられたことで、ふっと僅かに腕を緩める。