「相変わらずカバンは抱えてるんだな」
「あっ」
指摘されて思わず彼を仰ぎ見ると、これまで見たことのないような愛情深い微笑みを浮かべている。
「あの、もう平気ですから! 重いですし、下ろしてください」
思わずそう口走っていた。
これ以上、こんなに近い距離でいたらどうにかなってしまいそうだ。
力強い腕に抱かれ、まるで他にはなにも見えないといった熱視線を向けられ続ければ、心ばかりか芯まで全部焦がされる。
経験したことのない感覚に襲われ、甘い衝動が全身を駆け巡る。
「ダメ」
祥真がひとこと拒否をした。
月穂はびくっと肩を上げ、おもむろに視線を彼の瞳へと滑らせていく。
「君がカバンを抱くように、俺は君が大事だからこのまま運ぶ」
(今、なんて……?)
予測もしない言葉に、すっかり思考は止まってしまった。
茫然としている間にも、祥真は階段を上り始める。
「苦手な暗い場所に閉じ込められたんだ。疲弊してるだろう。さらに怪我までしてるのに階段なんて上らせられない」
もはや抵抗もできず、彼の意のままにされるしかない。
自分は大柄なほうではないとはいえ、人ひとり抱えて階段だなんて苦しいに決まっている。 そう思っているのに、祥真の様子を見れば、表情も変えずにまた一段、一段と上っていく。
ふと、前に合コンに来ていた祥真の先輩という男が、休日はジムに行くと言っていたことを思い出す。
もしかしたら、祥真も同じように休みの日に身体を鍛えているのかもしれない。
特にパイロットは健康管理も重要だから、それが仕事の一貫でもあるのだろう。
しかし、本当にそうだったとして、鍛えているのは健康管理のためであって、こんなふうに自分を運ぶためではないだろう、と月穂は自分を叱咤する。
「あっ」
指摘されて思わず彼を仰ぎ見ると、これまで見たことのないような愛情深い微笑みを浮かべている。
「あの、もう平気ですから! 重いですし、下ろしてください」
思わずそう口走っていた。
これ以上、こんなに近い距離でいたらどうにかなってしまいそうだ。
力強い腕に抱かれ、まるで他にはなにも見えないといった熱視線を向けられ続ければ、心ばかりか芯まで全部焦がされる。
経験したことのない感覚に襲われ、甘い衝動が全身を駆け巡る。
「ダメ」
祥真がひとこと拒否をした。
月穂はびくっと肩を上げ、おもむろに視線を彼の瞳へと滑らせていく。
「君がカバンを抱くように、俺は君が大事だからこのまま運ぶ」
(今、なんて……?)
予測もしない言葉に、すっかり思考は止まってしまった。
茫然としている間にも、祥真は階段を上り始める。
「苦手な暗い場所に閉じ込められたんだ。疲弊してるだろう。さらに怪我までしてるのに階段なんて上らせられない」
もはや抵抗もできず、彼の意のままにされるしかない。
自分は大柄なほうではないとはいえ、人ひとり抱えて階段だなんて苦しいに決まっている。 そう思っているのに、祥真の様子を見れば、表情も変えずにまた一段、一段と上っていく。
ふと、前に合コンに来ていた祥真の先輩という男が、休日はジムに行くと言っていたことを思い出す。
もしかしたら、祥真も同じように休みの日に身体を鍛えているのかもしれない。
特にパイロットは健康管理も重要だから、それが仕事の一貫でもあるのだろう。
しかし、本当にそうだったとして、鍛えているのは健康管理のためであって、こんなふうに自分を運ぶためではないだろう、と月穂は自分を叱咤する。



