彼が英語を流暢に話すこと。
 そして、やけに土地勘があり、海外での行動に慣れていたことが腑に落ちる。

 月穂は祥真を盗み見ると、視線がぶつかりそうになった気がして、慌てて目を背けた。
 そのとき、突然肩に手を置かれ、飛び上がって驚く。

「そういえば大和さんは、先月ひとりで海外に行ってきたらしいですよ~」

 月穂はぎょっとする。

「へえ! どこまで?」
「あ……」
「ロスだって! しかも、仕事でも遊びでもなくて、個人的にアメリカの心理学を学びに行ったんですよ」

 興味を示した夕貴に、月穂は躊躇いがちに口を開いた。が、なぜか乃々が意気揚々と答えていた。

「向こうに住む人のブログが気になって訪問したんですって。すごいですよねえ」
「そうなんだ。海外旅行は結構するの?」

 夕貴は月穂をまっすぐ見て問いかけた。

 だれがどう見ても月穂に質問されている光景だ。月穂以外が答える雰囲気ではない。
 さすがの乃々も黙るなか、月穂がぽつりと答える。

「いえ。それが初めての海外旅行で……」
「初めてかあ! なかなか勇気あるね!」

 乃々は自分からこの話題を提供したくせに、夕貴が楽し気にしているものだから面白くないといった顔を見せる。

「あっ。そうそう! この間、海外から旅行で来日している間搬送されてきた患者さんがいてー」

 乃々が話題をすり替えると、友人たちは『またか』といったように、辟易した表情を浮かべていた。
 しかし、月穂だけは自分の話題から逸れたことにホッとしていた。