『いや。だめだな』
彼が幾分か柔らかな声音で撤回するものだから、月穂は様々な不安がほんの少し和らいだ。
優しい声が、続けて耳に入ってくる。
『五分くらい管理会社への連絡が遅くなっても、業者が来る時間はきっとそう変わらない。それなら、このままでいよう』
「え……?」
『俺がそっちに着くまで話をしよう』
すぐには祥真の言う意味を理解できなかった。が、これは暗闇にひとり怯えている自分に対しての気遣いだと気づくと、どうしようもなく胸が締めつけられた。
『あー……と、そうだな。今日は散々だった』
どうやら『話をしよう』と言ったものの、話題までは考えていなかったようだ。
祥真は少し間を取ってから、思い出したように今日の出来事を口にする。
『もう着陸だっていうときに、エンジントラブルが起きるなんて。内心焦った』
「私も事故を知ったときは本当に……! ただ、無事を祈ることしかできなくて……」
月穂はぽつぽつと細い声で返す。
今日、ニュースを見たときの衝撃と動揺をまだ忘れられない。
『全員無事でよかったよ。機内でも大きな混乱は招かなかったと思う。ものすごく大変ではあったけど』
静かに綴られる言葉で、祥真は立派に仕事を全うしたのだろうということは想像に容易かった。
〝自分にはほかの人にあるものが欠けている〟
そんなふうにコンプレックスを抱いていたなんて嘘のように、冷静に目の前の現実と向き合って、結果、大きな事故になることもなく着陸を成功させた。
月穂はなにも口には出さなかったが、携帯の向こうの祥真へ尊敬の念を抱く。
彼が幾分か柔らかな声音で撤回するものだから、月穂は様々な不安がほんの少し和らいだ。
優しい声が、続けて耳に入ってくる。
『五分くらい管理会社への連絡が遅くなっても、業者が来る時間はきっとそう変わらない。それなら、このままでいよう』
「え……?」
『俺がそっちに着くまで話をしよう』
すぐには祥真の言う意味を理解できなかった。が、これは暗闇にひとり怯えている自分に対しての気遣いだと気づくと、どうしようもなく胸が締めつけられた。
『あー……と、そうだな。今日は散々だった』
どうやら『話をしよう』と言ったものの、話題までは考えていなかったようだ。
祥真は少し間を取ってから、思い出したように今日の出来事を口にする。
『もう着陸だっていうときに、エンジントラブルが起きるなんて。内心焦った』
「私も事故を知ったときは本当に……! ただ、無事を祈ることしかできなくて……」
月穂はぽつぽつと細い声で返す。
今日、ニュースを見たときの衝撃と動揺をまだ忘れられない。
『全員無事でよかったよ。機内でも大きな混乱は招かなかったと思う。ものすごく大変ではあったけど』
静かに綴られる言葉で、祥真は立派に仕事を全うしたのだろうということは想像に容易かった。
〝自分にはほかの人にあるものが欠けている〟
そんなふうにコンプレックスを抱いていたなんて嘘のように、冷静に目の前の現実と向き合って、結果、大きな事故になることもなく着陸を成功させた。
月穂はなにも口には出さなかったが、携帯の向こうの祥真へ尊敬の念を抱く。



