BIRD KISSーアトラクティブなパイロットと運命の恋ー

静寂な空間は、いつもであれば安らぎを感じる。しかし、今はまったく逆で、不安しかない。
 月穂は蹲ったまま、息を顰めていた。

 どれくらい経ったのだろう。実際にはまだ数分のはずと思いはしたが、もっともっと長い時間こうしている気がした。

 狭い場所ということもあり、余計に息苦しさを感じる。
 もしかして、ずっとこのままなのかもしれないという、過去の感情がありありと蘇る。

(そんなことあるわけない。もうちょっとしたら、きっと誰かが気づくはずだもの)

 大人になった冷静な月穂が、心の中のもうひとりの自分に言い聞かせる。
 それでも、うっかりしていたら、恐怖に飲みこまれてしまいそうだ。

 自分でもどうしたらいいのかわからず、泣き出したい気持ちになっていた、刹那。
 カバンのポケットにしまってある携帯が鳴った。

 月穂はビクッと肩を震わせたが、着信音に勇気づけられるように、そっと瞼を開いた。

(誰……?)

 暗がりの中、眩しいくらいに光る画面に目を細める。
 そこには数字の羅列だけで、登録された名前はない。

 冷静ではないこの状況で、相手が誰かなどという心当たりを探る余裕もない。

 ただ言えることは、もしかしたら着信主に助けてもらえるかもしれない。

 その一心で、月穂は震える指を画面に落とした。

「……はい」
『もしもし』

 耳の奥にスルッと入り込んで来た低く落ち着いた声に、月穂は思考が止まった。