「早く会社に戻って帰ろうぜ」
そんな会話をしながら歩く作業員たちは、月穂のことなど気にすらしていない。
月穂は最後のひとりが出てきた瞬間、もうひとりの自分が心の中で囁いた。
ドアが開いた。今滑り込めば、中に入れる。
自動ドアが完全に開き、数秒停止している。
再びドアが動き始めたのを引き金に、月穂はギリギリでドアをすり抜けた。危うく松葉づえが挟まり、転んでしまうところだった。
いけないこととはわかっていたが、多くの人が来るエントランスで、松葉づえに支えられて立っていれば嫌でも注目される。
胸の中で誰に向かってかはわからないが『ごめんなさい』とつぶやき、エレベーターを目指した。
エレベーターは一階で待機していて、すぐに扉が開いた。
乗り込む直前に、ボタンの上の貼り紙に目を留める。
「定期点検……」
無意識にぽつりと読み上げた。文面を追っていくと、日時や期間が記載されていて、すでに済んだことだと確認してエレベーターの中に入る。
さっきの作業員は、おそらくエレベーターの点検をしていたのだろう。そして、この貼り紙をはがし忘れたのだとひとり納得した。
月穂はエレベーターの扉がしまっていく間、目的階の『10』のボタンを押す。
初めはゆっくりと上昇を始めるエレベーター内で、階数表示のランプを追っていた。
ランプが『2』から『3』に差しかかったところで、突然ガタッと足元が揺れ、まもなく電気が落ちた。
真っ暗になったことで、月穂の平常心が奪われる。
(……怖い!)
狼狽えて松葉づえを手放してしまい、足元に転がる。
その音すらにも大きく肩を上げ、固く目を瞑る。
月穂は両手を耳にあて、ずるずるとその場に座り込んでしまった。
そんな会話をしながら歩く作業員たちは、月穂のことなど気にすらしていない。
月穂は最後のひとりが出てきた瞬間、もうひとりの自分が心の中で囁いた。
ドアが開いた。今滑り込めば、中に入れる。
自動ドアが完全に開き、数秒停止している。
再びドアが動き始めたのを引き金に、月穂はギリギリでドアをすり抜けた。危うく松葉づえが挟まり、転んでしまうところだった。
いけないこととはわかっていたが、多くの人が来るエントランスで、松葉づえに支えられて立っていれば嫌でも注目される。
胸の中で誰に向かってかはわからないが『ごめんなさい』とつぶやき、エレベーターを目指した。
エレベーターは一階で待機していて、すぐに扉が開いた。
乗り込む直前に、ボタンの上の貼り紙に目を留める。
「定期点検……」
無意識にぽつりと読み上げた。文面を追っていくと、日時や期間が記載されていて、すでに済んだことだと確認してエレベーターの中に入る。
さっきの作業員は、おそらくエレベーターの点検をしていたのだろう。そして、この貼り紙をはがし忘れたのだとひとり納得した。
月穂はエレベーターの扉がしまっていく間、目的階の『10』のボタンを押す。
初めはゆっくりと上昇を始めるエレベーター内で、階数表示のランプを追っていた。
ランプが『2』から『3』に差しかかったところで、突然ガタッと足元が揺れ、まもなく電気が落ちた。
真っ暗になったことで、月穂の平常心が奪われる。
(……怖い!)
狼狽えて松葉づえを手放してしまい、足元に転がる。
その音すらにも大きく肩を上げ、固く目を瞑る。
月穂は両手を耳にあて、ずるずるとその場に座り込んでしまった。



