BIRD KISSーアトラクティブなパイロットと運命の恋ー

指摘されて自分の手元に目を落とすと、無意識に両手を添えてカバンを抱き寄せていた。

 べつに彼女を警戒していたわけではない。
 でも、そう捉えられてしまったかも、と急いで顔を上げた。

「あの、これは仕事の物が一式入っていて」
「ああ。そういうことですか。そのお気持ちわかります。私も自分の仕事道具は特別ですから」

 月穂の不安をよそに女性は嫌な顔を見せることなく、逆に共感してにこりと笑いかけた。
 そして、月穂のカバンに優しい眼差しを向けながら言う。

「私、あなたの印象がしばらく残っていたんです。あの日、私が淹れたラテをなかなか口にしようとしませんでしたよね」

 彼女の発言に目を剥き、月穂は女性を凝視する。

 たった一度訪れただけの自分を覚えてくれただけでも吃驚したのに、詳細なことまで記憶されていることに驚きを隠せない。

 女性は苦笑いを浮かべる。

「初め、気に入らなかったのかと不安な気持ちで見ていて……」

 月穂が『それは誤解です』と弁明する間もなく、彼女は続けた。

「だけど、よく見たらうれしそうな横顔だなあって。気に入らなかったんじゃなく、逆に気に入ってくれたのかなって思って。あ、ただの勘違いだったらごめんなさい」
「か、勘違いなんかじゃないです」
「本当ですか! 私、いつかラテアートの世界大会で入賞したいんです。まだまだですけれど」

 ほんのり頬を赤らめて恥ずかしそうに言う女性を見て、勢いよく切り出した。

「あのときっ……! 私は、『ごちそうさま』だけじゃなくて、本当は『今までで一番美味しかったです』ってあなたに伝えたかったんです! なのに、勇気が出なくて」

 月穂の告白に、女性は目を大きくし、瞬かせる。
 すぐに、その瞳は煌めいて、笑顔がはじけた。