全員揃ってはいなかったが、男性が気を遣って先に飲み物をオーダーした。
 運ばれてきたグラスを合わせてから酒を飲み、乃々たちは話に花を咲かせる。
 月穂はときどき相槌を打つ程度で、正面の空席を眺めながら静かにウーロン茶を飲んでいた。

 それから、さらに十数分経った。

「あ、やっと来た。こっちこっち」

 向かいに座る男性のひとりが手を高々と上げて誰かを呼ぶ声に、女性全員が半個室の入口に注目する。

「遅れてすみません。ほら、祥真(しょうま)! こっち」

 現れたのは、先に来ていたふたりよりもやや若い男性だった。
 乃々たちは、年が近そうで爽やかな雰囲気の彼に目を輝かせていた。

(わあ。この人、一気に好意を集めた。まあ、確かに話しやすそうな感じはするかな)

 月穂は冷静に分析していたが、次の瞬間、頭が真っ白になった。
 今しがた、『祥真』と呼ばれた男に目を奪われたのだ。

「ちょっとは仕事と同じくらいテキパキ動けよ」

 悪態をつかれて最後に現れた長身の彼は、ジーンズにVネックのシャツというラフな格好にもかかわらず、男性四人の中で一番目立っていた。
 それはファッション誌から飛び出してきたようなスタイルと顔立ちのせいだろう。

 祥真は女性たちが色めき立つのも気にも留めず、さっき言われた嫌味に冗談で返す。

「じゃあ、お前が給料出してくれるか?」
「バカ言うな。あ、初めまして。俺は櫻田夕貴(さくらだゆうき)です。で、こっちは隼(はやぶさ)祥真。よろしくね」

 夕貴と名乗った男性は、自分だけではなく祥真まで紹介をし、椅子に座った後もさりげなく祥真にメニューを渡す。どうやら世話好きなタイプだ……と、いつもの月穂なら冷静に観察しているところだが、今ばかりは違った。

 月穂は夕貴よりも、自分の正面に座る祥真に釘付けだ。肩肘をつき、メニューを眺める彼から目を離せない。

「隼……」

 月穂が思わず祥真の名前をつぶやくと、彼に切れ長の目を向けられた。

 祥真は月穂と視線を合わせた途端、瞳を大きく見開く。

(絶対そうだ。この人――)