私たちは大人になった


さすがにその日、もう彼と顔を合わせるのが嫌になった私は、ことあるごとにトイレに逃げてみたり、長い休み時間には普段立ち寄ることのない静かな図書室に逃げ込んでみたり。
放課後はどうやって逃げようか。
図書室で本を開いても文字を追うこともなく、頭を占めるのはそればかりだった。

『ここにいたのか』

自分に向けられた静かな声に思わず肩がビクついた。
振り向けばそこに優の姿があって、安堵の息を吐く。

『やる』

スッと差し出された拳に、素直に手を差し出すと握っていた指が解かれて中からコロリとイチゴミルクの飴が出てきた。
小さな頃から大好きだった飴だ。
これを渡すために探していたのだろうか、私のことを。
もう間も無く休み時間も終わるというのに。

『ありがとう』

私が言うと、優は渋い顔をして近くの椅子に腰掛けた。
優は頬杖をついてこちらを見ている。
図書室は静かだ。

『どうすんの?』
『どうするもなにも』
『どんなに言ったって通じないやつはいるぞ』
『そうは言っても……』

同じ学校に通っている以上はどうしようもなく、できることと言えば休み時間の度に逃げることだけ。
家を知られているのは痛手だ。
元々、彼のことを嫌いになったわけでもなかったはずなのに。

『どうしてこうなっちゃったんだろ』

心の声が零れる。
優の心はため息となって零れた。
呆れているんだろう。