君が好きなんて一生言わない。

美紅ちゃんは颯爽と教室に向かって歩いていった。

言いたいことはすべて言ったと、満足したような顔だった。


美紅ちゃんがいなくなると、私達の周りにはまた平穏が戻ってきた。

先輩も掴んでいた私の手を離して、向き直る。

けれどいつもとは違う、ぎこちない空気。

一度壊れたものは完全には元に戻らない。きっと美紅ちゃんはそれを知っていたから上機嫌だったんだ。

私から幸せを奪えたことに、喜んでいたんだ。


俯く私に「顔をあげて」と先輩は言う。


「ごめん、来るのが遅くなって」


申し訳なさそうな顔をする椎先輩に私はは視線を逸らして首を横に振った。


「…助けてくださって、ありがとうございました」


「私、今日は教室に戻りますね」と言うが早いかその場を立ち去ろうとする。

けれど先輩が私の腕を掴んだ。


「え、どうして?一緒に食べようよ」


私の突然の態度に困惑したのか、先輩は私を引き止める。


「ここまで来るってことは、一緒に食べるつもりだったんでしょ?」


先輩の言うとおりだ。

私は先輩とごはんを食べるためにここに来た。


だけど。



「ごめんなさい」



食べられる、わけがない。

紗由のことを知って、それなのに椎先輩と一緒にいるなんて、できるわけがなかった。