驚きのあまり卵焼きと先輩の顔を見比べてしまう。


「いっ、いや、大丈夫ですから!」

「いいから、ほら、口開ける」


首を横に振るものの、目の前まで迫る黄色い卵焼きはあまりに美味しそうで、おにぎりを食べていると言うのについお腹が鳴ってしまった。

ぐう、と締まりのない音が響く。


「…体は素直だね?」


にやりと先輩は笑った。

恥ずかしさに耐えきれなくなって「先輩!」と叫ぶけど、「美味しいよ?」なんて言うからもう私は開き直って仕方なく口を開けた。

先輩はクスリと笑うと「はい、あーん」と言って卵焼きを私の口まで運ぶ。

…何の辱めですか、これは。


「…美味しいです、卵焼き」


先輩は意地悪だけど、先輩の卵焼きはふんわり甘い。

ちょうどいい甘さで、なんだか優しくて懐かしい味がする。


「気に入ってもらえたなら良かった」


先輩はお弁当を食べながら「明日はちゃんと栄養バランスのいいご飯を食べること」と私に注意する。


「…努力します」

「する気ないね」


先輩はため息を吐いた。


「頑固だね、麗ちゃんは」


お茶を飲みながら私は「そんなことないです」と首を横に振る。


「まあ、いいけどね」


すると先輩は思い出したように言った。


「ユズからの伝言、バスケの試合見に来てって」