「それで、家どっちだっけ?」
「〇〇スーパーの方向です」
そう答えてから「ちょっと入り組んだ場所にあるんで、スーパーまでで大丈夫です」と付け加えた。
けれど先輩は「へえ、麗ちゃん家ってスーパーの方だったんだ」と呟くように言った。
「別に家の前まで送り届けてもいいけどね」
「ほんと、大丈夫ですから」
私が頷きながらそう言うと「麗ちゃんがそこまで言うなら、そうするけどね」と先輩は溜息を吐きながらそう言った。
先輩は不思議な人だ。
出会って間もない人と、それも男の人と、こんなに普通に話せるようになる日が来るなんて思いもしなかった。
変に気を張らなくても、受け入れてもらえているような感覚がする。
それは先輩の纏う不思議な空気がそうさせるのかな。
まるでまっさらなシーツみたいに、こんな私を受け入れてくれている。守ってくれる。守ろうとしてくれている。
クラスの中にいるときとは全然違う。
でも紗由といるときとも違う。
なんだろう、この感覚。
絶対に私を傷つけないって分かる、この感じは。
隣を歩く先輩の顔を見上げる。
先輩は何も話さないでまっすぐ前を見据えている。
…何を考えているのか分かんない。
先輩のことを知りたいと思うたびに霧の中に隠れていくみたいだ。