「試合のこと、知ってたのか?」
「当然」
そう言って椎先輩はそっぽを向いた。
椎先輩はユズ先輩に冷たく見えるけど、本当に大切な友達として思っているんだってことが伝わってくる。
「今度試合するとこ、結構強いんだって?」
「よく知ってんな。でも安心しろ、ぜってー負けねーから」
ユズ先輩がそう言うだけでなんだか安心してしまう。
絶対負けないって、その不敵な笑みを見ているだけで確信してしまえる。
ああ、運動部のエースってこういう人のことを言うんだろうなって思った。
「試合見に来いよ、椎」
「しょうがないな」
「しょうがないなって何なんだよ!」とユズ先輩は椎先輩につっこんで、それから私の方を見て「麗ちゃんも」と微笑んだ。
「もし良かったら来てくれよ。こうして出会えたのも、きっと何かの縁だろ?」
歯を見せて笑うユズ先輩に私は驚きながらも嬉しくて「はい!」と頷いた。
それからユズ先輩は「本当に申し訳ない!今度はちゃんと時間いっぱい手伝う!」と謝りながら言いながら体育館の方に走って行った。
「ほんと、忙しいやつ」
遠ざかるユズ先輩の後姿を見つめながら椎先輩は溜息を吐く。
「無理して手伝わなくたっていいのに」
その言葉は素っ気ないのに温かい。
お互いのことを大切に思ってるんだって痛いくらいに伝わってきた。
「いいですね、そういうの」
気が付いたら言葉にしていた。


