君が好きなんて一生言わない。

確かに先輩の言う通りだ。

ずっと来たかった場所。

お母さんが眠っている場所だ。


だけど。



「きっとお母さんはどこにいても見守っていてくれるはずですから」



見上げた空は少し灰色がかっていた。

さっきまで晴れていたというのに山の天気は変わりやすい。

なんだか雪が降りそうだ。


「そういえば、私、先輩から聞いていないんですが」


振り返ると先輩は「なに?」と首を傾げた。


「先輩、私に好きって言ってないですよね?」


ぴたりと足を止めて先輩は「なんで今」と言った。


「思い出したのが今なので」

「理由になってないけど」

「付き合ってるのに言ってくれない理由も分からないんですが」


詰め寄ると先輩は溜息を吐いた。


「…言わないよ、それも麗のお母さんの墓前でなんて」


先輩はスタスタと歩き出してしまった。

山道を下ろうとしていて、私は慌てて追いかける。


「ま、待ってください!置いていくつもりですか!」


先輩は振り返った。

その表情は優しくて胸がぎゅっとしめつけられる。


「麗のことが好きだとは言わないけど、でも」


私の手を握ると微笑んだ。



「大好きだよ」



スノウドロップみたいな白いこの雪が降り積もるように。


願わくばどうかこの先もずっと、先輩とつなぐ未来が希望で溢れていますように。



fin.