君が好きなんて一生言わない。

紗由は笑っていた。

けどその笑顔はいつもの底抜けに明るいものとはかけ離れていた。

どうしてそんな顔をしているんだろう、と思って問いかけようとしたけれど、それより先に紗由が「ごめんね」と言った。


「ごめんね、麗」


人気のない放課後の薄暗い教室、窓枠の向こうのピンクとグレーを混ぜ込んだような雲を背に、目を細めて眉をさげる紗由。

まるで夢のようで、現実味がなかった。



「な…んで、謝るの…?」


走ったからか、こんなに寒い冬だというのに、冷や汗が背中を伝う。

なぜ、と問いかけたものの、紗由が謝る理由が全く分からない訳じゃなかった。




「わたし、椎先輩に告白したの」



ただ、これが答えではないと信じたかった。

そうでなければいいのにと願った答えが聞こえてきて、私は目を見開いた。

痛いくらいに心臓が鼓動している。


「わたし、分かってたんだ。麗が椎先輩のこと好きだって」


紗由の口から溢れてくる言葉はどれも驚きだった。

紗由に言ったはずのない、椎先輩への気持ちもばれていたなんて思ってもいなかった。


「わたしが椎先輩のこと好きだって言ったら、自分もだよって言ってくれるかと思ってた。

でも結果は違った」


私は紗由に言った。

椎先輩のことが好きかと尋ねられて、好きじゃないと答えた。

初めて紗由に嘘をついた。


表情を曇らせた私に「違うの」と紗由は言う。