君が好きなんて一生言わない。

「昨日の夜、雪が降ったでしょ。だから今日は水やりしなくても大丈夫かなと思ってね」


確かに昨日の夜は寒かったし吹雪いていた。

積もってはいなかったけれど、その寒さでところどころ氷が張っているところもあった。


「そういえば、あの植物、なんですか?」

「あの植物?」

「あの校門のところに植えてある植物です。長い葉っぱの」


すると椎先輩は目を見開いて、それからまたまっすぐ前を見据えた。


「あれは特別な花だよ」


「特別?」


「そう、特別」


けれどそれ以上先輩は何も言わない。


「どう特別なのか、教えてはくれないんですか?」


「うん、秘密」


いたずらっぽく先輩は笑うけれど、どこか影のある笑みに胸が締め付けられる。

先輩にはきっと誰にも近寄れない秘密がある。

そして私はその秘密に触れない。きっと、知ることはできない。

それがもどかしくて、さみしい。


そんなことを考えながら先輩の隣を歩いていると、後ろから「あら、椎くんじゃない!」という声が聞こえてきた。

椎先輩は振り返ると「花田(はなだ)さん。こんにちは」と笑顔を見せた。

花田さん、と呼ばれた年配の女性は、どうやら椎先輩の近所に住んでいる人らしい。

親しげに話す花田さんはやがて私の存在にも気づいて「あら」と声をかけた。


「まあ、誰かと思えば麗ちゃんじゃない!」


「え…?」