その後、食事の邪魔をされたと、プンスカ怒る彼女をなんとか宥めて、ご機嫌を取る。
幸せな…午前中の一時。
職場では…当たり前だけれど、与えてもらえない、至福の時。
この仔猫は、本当に表情をくるくる変えて、飽きさせない。
多少引っ掻かれたとしても、きっと許せる程に愛おしい。
♪♪〜
そんな二人の時間を裂くかのように、鳴り出した彼女のスマホ。
チラリと見やるとそのディスプレイには、「神田」の文字。
なんとなく、焦れて俺は水美のスマホをソファーの端に落とした。
「水美…」
「あ、スマホが…」
「そんなの、いいから」
「よ、良くないですってば!」
「俺から…逃げたい?」
「……っ」
「俺は…水美を逃したくない。こんな風にしたの、水美なんだから、責任取って?」
「も、もう!瑛飛さんのばか!」
詰める距離。
逃げ腰になる彼女。
俺はそこで、絶妙な匙加減をする。
「分かった。じゃあ…水美から、欲しがるまで…俺は手は出さない」
「ほんとに…?」
「でーも。キスはするよ?」
「え!どうして!手は出さないって、さっき!」
「手を出さなくても、キスくらい出来るだろ?」
「〜〜〜〜っ!?」
なんだろうな、この馬鹿馬鹿しいやり取りは。
傍から見たら、ウンザリするだろうけど…俺には必須事項。
押したり引いたり、波を立てなきゃ。
この仔猫は、自分から此方に堕ちてはくれないから。
堕ちてこれるように、仕向けるには何かと労力が掛かるんだ。
でも、それも必要事項。
「な、なんで笑ってるんですか…?」
「んー?水美が可愛過ぎて?」
「…信じられない…」
過去の男なんて気にするなよ…と抱き締めたい。
そんなモノ気にならないくらいに愛してやると…。
けれど、彼女には彼女なりの秩序があって。
それを全て取っ払って、乗り越えて来いだなんて、そんな大人気ない事は言えないから。



