店内に響く控えめなお琴の音色が、凛とした空間を和ませる。
彼に連れられ、困惑しながらも中へと歩を進めると、新しく張り替えたのか、畳のい草のとても良い香りがして、自分の心も心なしか緊張の糸が解れて行くのを感じた。
彼は。淡い光で照らされた廊下をスタスタと進んでいく。
なんの、迷いもなく。
「え、瑛飛さん?あの、あの…」
「し。後は俺に任せて?」
色々と突っ込みたい所は満載だったけれど、彼の真剣な表情に、何も言えなくなる。
また一つ知ることになる、彼の素顔。
私は一体いくつ、彼の顔を知ることになんだろう?
きゅうっと繋がれた手に力を込める事で、私は不安を紛らわせた。
そして、料亭の最奥にある大きな部屋の前で、ぴたりと足を止めると、徐に彼は口を開いた。
少しだけ固めの声色で。
「失礼します。瑛飛です。入りますよ」
「お、お邪魔致します…って…あ、あれ?」
一度治まった筈の緊張が舞い戻る。
私はエスコートされるがまま、ドキンドキンとする胸に自然と手をやりながら、おずおずと部屋の中へ入った。
でも、そこにいたのは、見知った顔だった。



