「瑛飛さん…」
「…ん?」
「分かりました。…真剣に、お話をしませんか?」
「……じゃあ、メシ、付き合ってくれるよな?」
「はい」
その後は、心此処にあらずな仕事態勢だった。
一応、誰にも迷惑を掛けないでいられたけれど、それは彼のフォローがあってこそのもの。
私は、終業時間のベルが鳴るとすぐにトイレに行ってメイクを直し、彼の好きな色のルージュを塗った。
そして、そのまま地下駐車場へと向かう。
うちの会社は、別に社内恋愛禁止ではないけれど、やっぱり見知った人たちの前で、「私たちはカレカノです!」みたいなことをするのはとても気が引けて、時間差を付けて行動をするように、暗黙の了解でそうなっていた。
「お待たせ」
「大丈夫ですよ。待ってません」
「じゃ、行くとするか。水美、和食でいい?」
「えぇ」
エスコートされるがままに、ぱたんとドアを閉められ、私はシートベルトをすると、運転席に入り込んできた彼に向かって、ずっと…ここ最近ずっと言えてなかった想いを小さく口にした。
「瑛飛さん…好き」
「うん…俺も水美が好きだよ」
ぽんぽん
エンジンを掛けてから、彼は私に向き直り、そう言って微笑みながら、頭を撫でてくれた。
くるくる、くるくる…
やっぱり、何度経験しても慣れない螺旋状の通路。
でも、最初の頃よりはマシで、少し酔いはするものの、彼との会話を続けることが可能なくらいにはなった。
「あそこのお店ですか?」
「いんや。今日は違う場所。水美にちゃんと、俺のこと知ってもらおうと…俺も腹括ったから、さ…」
だから、黙ってついてきて欲しい。
彼はそれだけ言うと、黙ってハンドルを切った。
私も、そんな彼に対して何の迷いもなく小さく頷いて、黙り込んだ。
少しでも、貴方のことが知れるならば。
私は、多分それだけで、いい。
たとえそれで傷つくようなことが起こっても。
自分の何かを犠牲にしたとしても、この彼を理解出来るなら、今はもうそれでいいとさえ思っていた。



