【完】溺愛恋愛マイスターにぞっこん?! 〜仔猫なハニーの恋愛奮闘記〜


「別に、我儘なんて言わないんだけどな…」



こぽこぽと湯気を立てて、急須から流れ出るお茶の濃い緑色を眺め、私は一つ深い溜息をついた。
その深い溜息の込められたお茶は、応接室に届けるためのもの。
今、そこに入れば、嫌でも引き抜きの話を目の当たりにしてしまう。
だから、応接室へと向かう足はとても重かった。


こんこん


「どうぞ」


私のノックに反応したのは、課長の柔らかな声だった。
課長の穏やかさに、私は気を取り直して、にこやかに「失礼します」と部屋に入り込んだ。
そしてすぐさま、お茶を来客者へと勧める。

それで、私の役目は終わり…のはずだったのに。


「あぁ、ちょっと久倉くん。君このまま残ってくれるかな?」

「…はい?」

「君の意見も聞かせて欲しいと思ってね。こういったものは女性の意見が大事だから…」


そう言って、課長は私を呼び止めた。
課長の隣には、少し緊張を帯びた表情の彼が座っていて、そう言えば会社の中ではこんな風な顔をしていたかと、今更思い出す。


「えっと、課長?少しお話が把握出来ていないのですが…?」

「あぁ、あぁ、すまないね。君にはまず最初に話しておこうと思ってね」


その先は…。
その先は、彼の口からきちんと聞きたかったのに。