『お前は一人でも生きていけるだろ』
『キミは結局自分が可愛いだけさ』
『俺の事コケにして、そのままバカみたいに仕事だけして生きてろよ』
耳鳴りのように繰り返される過去の声。
それはうねりを上げて、胸に強大な闇の穴を空けていく。
言葉は容易く人を闇の底へと引っ張り込んでいく。
それが例え愛しさの裏返しでも、受け取った方が裏切りとみなせば、意味は丸きり反対の物となる。
私を抱いた腕で、他の人を愛さないで…。
私を見つめた瞳で、他の人を慈しまないで…。
私に投げ掛けた言葉で、他の人を掻き口説かないで…。
願いは今まで何一つ、相手に届かなかった。
会えば、おざなりのキスを求められて。
決まったように腕に抱かれて、眠りも浅い内にベッドの横の温もりは冷えていく。
そこに、お金の束が置いてある事もあった。
まるで、私から体を差し出したかのような、酷い仕打ち。
その度に、私は一人で泣きじゃくった。
声にも出せない嗚咽だけを残して。
それが、彼に逢うまでの私だった。
恋しては裏切られ、また恋しては傷付けられる。
それでも、愛が欲しかった。
身を焦がすような愛が。
不変の愛情を、この手にしたかったんだ。
雪からそのまま雨になったお陰で、微かにだけ残った雪
の結晶たち。
そこに手を当てたら…私の心も少しは浄化されるかな…。
そう考えていたら、信号が赤になり彼が少しだけ掠れた声で私の名前を呼んだ。



