「水美…」
「はい…?」
「夕飯、作って?」
「…私のなんかでいいんですか?」
彼女は、どうやら俺から甘えられるのが好きらしい。
というより、弱いらしい。
だから、素直に頷く。
そして、囁く。
「水美の、がいいよ」
と。
彼女の手料理が美味しいんだと、俺に話し掛けてきたのは、他の誰でもない神田だ。
なんでも、弁当を摘んだことがあるらしく、その味の完成度がいかに繊細だったかを、10分間くらい熱弁された時がある。
「とにかく!センパイの手料理食べられたら、第二関門突破じゃないですか?!もう!頑張ってくださいよ!補佐!」
ばしんばしん
背中を嫌という程叩かれて、俺はげんなりした。
そんなに、パッパパッパと事が進めば、苦労はしない。
大体、手料理食べられたからって、その分心を開いてくれるとは限らないじゃないか。



