「なぁ、水美?」
「?」
「手、使えないんだけど…」
「……?」
「抱き締めたいなーって」
「!」
「だめ?」
「…………」
強請って貰えないならば強請るしかない。
暫しの沈黙の後、彼女は少しだけ潤んだ瞳で俺を見てから、そっと俺の腕の中に収まった。
会社では、いくら目を配っていても、死角がどうしても出来てしまう。
目の前の席に座らせても、何処となく納得が出来ないのは、やっぱり彼女のマスコットキャラのせいだろう。
あぁ、そんな顔を他の男に見せるんじゃない。
そんな風に世話を焼いてやる必要なんかない。
口にはしないが、それはオーラに出てしまうようで。
「大原補佐、顔怖いですよ?」
と、神田に冷やかされるくらいだ。
だから、今日という一日を特別なものにしたかった。
上手い具合に外は一面の雪。
必然的に、寒がりな彼女から外出するという提案は出ない。
今日が過ぎてしまえば明日は日曜。
雪のお陰で出来たら奇跡的な丸っきり邪魔の入らない、二人だけの時間。
とりあえず…。
仕事は後回しに出来るが、彼女の事は後回しになんか出来る訳がない。



