「なにもしねぇよ」

私の考え、バレてたっぽい?

「そんな警戒しなくても取って食ったりしねぇつーの」

「べ、別にそんなこと思ってません」

「あーそう?」


彼は自分の椅子の背もたれに身体を預けると、片手で缶コーヒープルタブを捻る。ゴクゴクと喉仏が動くのを見て、この人は本当に何をするにも様になるなと思った。


「惚れたか?」


私の視線に気づいたのか、一ノ瀬さんはそんなことを言ってふわりと笑みを浮かべる。


「ほ、惚れてませんよ!」


とっさに目を逸らしたけれど、その笑顔があまりに色っぽくてドキン、と胸が音を立てた。相変わらず、私の心臓は彼の前だと騒がしい。


「お茶、いただきます」


それを誤魔化すように一ノ瀬さんがくれたお茶に手を伸ばす。温かいお茶。私はそれを一口飲むと、ほぅっと息をついた。

キーボードを叩いて冷え切っていた指先が少し温かくなっていく。

こういう所なんだろう。
周りが一ノ瀬さんに惹かれるのは。

仕事が出来る、ルックスがいい。彼の魅力はこれだけではない。悔しいけれど、そこは認めざる終えない。


マウスを動かし、修正を続けること15分。

ようやく全ての作業が終わった。

オフィスチェアに寄りかかり小さく伸びをする。仕上がった企画書をプリンターで印刷すると、私はそのまま一ノ瀬さんに出しにいった。


「一ノ瀬さん、終わりました」