もう終わりなの、諦め悪い男は嫌われるよ。
「貴方の知ってる私はどこにもいない。そして貴方も。親には自分の口でしっかり伝えるんだよ。浮気しました、馬鹿な事をしましたってね」
「咲!俺は!」
「言い訳ご無用。貴方みたいな男と付き合っていける自信もないし、私はもう我慢しないで私らしく生きていくって決めたの」
「っ……」
「さようなら。そして――お幸せに」
ノワールに言われた通り笑顔を最後に彼に向けて、踵を返して歩き出した。
軽くなった心に軽くなった足取り。
そんな私とは逆に彼の重たい声が聞こえてくる。
この後の修羅場には居たくない、逃げるが勝ちよ。
早足で丘を降り、元来た道を戻る途中で感じる冬の空気。
そんな冷たい空気に似合うように澄んだ心が生まれたような感覚に、心が踊る。
終わった……終わったんだ。
駆け足でノワールが待つ林へと急いだ。



