力なく頭を上げると、すぐ目の前に真っ黒なコウモリのような仮面で顔を隠す男が私を見ていた。
驚くことを忘れ、その仮面の奥に秘めた綺麗なグレーの瞳を見つめた。
綺麗な白い肌に、鼻筋が通った綺麗な顔。
そんな綺麗とは似合わない、にんまりとした笑みを浮かべるとずいっと私に顔を近づけてきた。
鼻と鼻が触れるか触れないかの所で、その距離を保ちつつ男はスンと私の匂いを嗅いだ。
『悲鳴も何もあげないとは……余程のお方で。まあ、こちらとしては骨があって面白いという所だから、良しとしよう』
ふふふと笑われたかと思えば、ゆっくりと近すぎた距離を離していく。
ふわりと落ち着いた香りが鼻に残るような感覚に、一つ目を閉じた。
――ついに私、おかしくなってしまったのかな。
起こっている事が余りにも不自然で、現実味がない。
消えてしまいたいという感情が、おかしな幻覚を見せているのかもしれない。



