……いや、違う。彼も本心を隠しているんだ。


私に何かをバレないように、何かを守るように。


ノワールが言ってくれた言葉たちには、嘘偽りはなかった。


嘘偽りなのは目の前で話すノワール本人だ、こんなのに私が騙されるものか。



「ノワール、何を隠しているの?」


『一体なんの事ですか』



肩を少しだけ上げてやれやれと言うように、困った顔をして私との距離を取った。



『俺を対価の代わりとしましょう』


「え?」


『大丈夫。夢のように忘れるさ』



何が大丈夫よ……そんな寂しそうな顔して言うものじゃないのに。


ノワールに手を伸ばそうとするけれど、その手は届くことなく体の重心はいつの間にか後ろへ傾いていた。


落ちると思った時にはもう遅く、湖へと私は身を投げ出していた。


最初から最後まで、なんておかしなやり方をしてくる人なんだろうか。


冷たい水しぶきが肌に触れては、ゆらりゆらりと消えていく。


ちゃんとした気持ちは伝えられることもできずに、体と共に深い湖の底へと沈んでいった。


さようなら、と小さくノワールの声が聞こえたような気がして、私はそっと目を閉じた。






こうして私の異世界での生活が、唐突に終わりを告げた。