茶々の誕生日は3月3日だ。

ちょうど“ 女の子の節句” に生まれてくるあたり、茶々っぽいなとずっと思っていた。

彼女に出会ってから、何度もこの日を迎えて来たけれど、一番、今でも覚えているのが、俺が中学2年生の時のことだ。

茶々は誕生日を13歳の誕生日を迎える2日前に珠理と別れた。

珠理が、「自分に好きな人がいるのに、中途半端な付き合いはやっぱりできない」と茶々に告げたらしい。

多分、相手が茶々だったから出た言葉だったと思う。


『誕生日、一緒にいようよ』


この言葉を茶々に自分から告げた時、きっと今まで生きて来た中で一番緊張した。初めて、茶々のことを誘った。


『…別にいーよ』


まだ少し半泣きでそう言う彼女に、少しだけ期待が膨らんだ。大切な日に、一番そばにいられることが嬉しかった。茶々の気持ちなんて、どうでもよかった。

その事実が、嬉しかったんだ。



行き先は茶々のリクエストで水族館。中学生だったからか、お互いほのくらいしか思いつかなかった。

でも、ものすごく楽しみで仕方なくて。前日は、全然寝付けなかったことを覚えている。



…茶々の誕生日当日。待ち合わせの場所に向かう途中で、持っていたスマホが震えた。茶々からの連絡だった。

例えば、寝坊したとか、時間に遅れるとか、そんな連絡なら全然よかったんだ。


…けど、その内容は当時、俺にとってとてもショックなことで。


『やっぱり珠理のことを忘れられないから今日は行けない。本当にごめんなさい。』


…あぁ、そっかって。

そう、終わらせられることだったはずなのに、その時の俺はどうしようもなく悔しくて、悲しくて。


少しだけ、茶々を許せなかった。



この思い出は、今でも少し、思い出すと辛くなる。

結局、珠理にはかなわないんだって、心から思い知った。俺が茶々を喜ばそうとしたって、きっと茶々の力にはなれない。

珠理じゃないと、茶々を笑わせることなんてできない。

ずっとマイナス思考だし、情けない感情だってことも分かっているけれど。


それでも、今も少し傷が残っているくらいには、自分の存在の小ささを思い知った。