——大切なもの、1つ目。

そんな人の誕生日の日に、俺はなんて恥ずかしいことを言ってしまっているのか。


「近海はカッコいいから、きっと茶々も近海のこと好きになるわよ」

「お前な、そんなこと言うのマジでやめろよ…、余計むなしくなるっつの」

「…でも、茶々は近海に救われてるとこ、きっとたくさんあるはずよ。何とも思ってないわけがないもの」

「…それならいいけどな…」


自分の気持ちを、ほんの少しだけ親友に教えたこと。

きっと明日起きたら、死ぬほど恥ずかしくなってしまうんだろうけど、今はもう、なんでもいいや。


「じゃあ近海、次はアタシのコイバナ聞いてくれる!?」

「コイバナ言うな。ぜってーやだ。夜が明けるわ」

「あのねっ!この間めごと久しぶりに鎌倉デートしたんだけど、その時の写真がそれはもう可愛くて…!」

「おい、人の話聞けコラ」



大切なものを2つ抱えて生きていくことは、時にものすごく大変だ。

昔から目の前に立ち塞がっている壁は大きくて分厚い。それを壊しながら、それでも大事にしていくなんて、もはや技術が必要だと思う。


でも、それでも、薄暗い台所の向こう側で満面の笑顔で話している彼女を見れば、そのくらいの努力、いくらでもしてやるよって気持ちも芽生えてくるわけで。

…どうしようもなく、心臓を掴まれるわけで。



「…はぁ…、かわい…」

「え!?なに!?近海、今めごのこと可愛いって言った!?」

「…ちげーよ、コッチの話」



いつかその大きくて分厚い壁を破り倒して、輝いている笑顔を手に入れたいって、思ってしまうんだ。