「好きって、言って欲しい」


あたしの言葉に、樹が小さく笑って……望んだ言葉をあたしの耳へと注ぎ込んだ。


「……好きだ」


甘く甘く、身体を溶かしていく樹の声。

おかしくなるんじゃないかと思うくらいの、幸福感。


3週間ぶりの樹の香りに、あたしは顔を埋めた。



 ※※※


「あっ!! なんだ、やっぱり買ったんじゃん」


そのまま樹の部屋へと出向いたあたしは、キッチンにある林檎うさぎのマグカップを手に取った。

それは、あたしが勧めたマグカップ。

……樹にはダメだしくらってたハズだったんだけど。


樹は気まずそうにあたしの手からマグカップを奪い取る。

そして、インスタントコーヒーを適当にカップへと入れた。


「これはオレのじゃねぇよ。大体、赤だろぉが」


確かに。

あたしが樹に勧めたのは黒林檎うさぎのマグカップだったのに、ここにあるのは赤。


首を傾げるあたしの横で、樹がもう1つの黒いマグカップを取り出す。

……おそろいの林檎うさぎのマグカップを。


その光景にあたしは嬉しさよりもおかしさが込み上げてきてしまって……思わず吹き出す。


「なにそれ! もしかしておそろい?!」

「うるせぇなっ! 他にいいのがなかったんだから仕方ねぇだろ!」

「樹ってば結構乙女チックなんじゃん~」


あたしのマグカップまで用意してくれていた事はもちろん嬉しい。

だけど、まさかあの樹がおそろいで……しかも林檎うさぎって。

そのギャップがなかなかあたしの笑いを逃がしてくれない。


そんなあたしに樹は不貞腐れて……ムスっとしながらあたしにコーヒーを差し出した。


「別にどうでもよかったんだけど。

……たまたま見たら、これにもおまじないがついてたから。それでなんとなく」

「え、なんておまじない?」


笑うのを止めて聞いたあたしに、樹はコーヒーを一口飲んでからその意味を教えてくれた。



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