外に出ると、静かな雨が降っていた。
樹と出逢った日と同じ雨に、なんだか胸が締め付けられる。
駐車場に置かれている、樹の愛車があたしの脚を止める。
あんな鉄の塊すら、樹のモノだってだけで愛しくて仕方がない。
なんでこんなに……
バカだな、あたし。
たった3日間でこんなに好きになるなんて……
好きになるなって言われてたのに、好きになっちゃうなんて……
本当に、バカだ。
あたしは俯いて駅までの道を歩く。
流れる涙を隠すように降る雨が、あたしの悲しみを隠してくれていた。
※※※
家に帰ると、お兄ちゃんがすごい勢いで走ってきてあたしを抱き締めた。
だから……本当は照れくさかったけど、お兄ちゃんの耳元でお祝いの言葉を口にした。
『幸せになれよ』って。
あたしがお兄ちゃんに望んでいたのは、『恋人』って未来じゃなかった。
お兄ちゃんは、安心できる男の人で……あたしがお兄ちゃんに求めていたのは、無償の愛だった気がする。
ただ、いつでもあたしを見守ってくれる人が欲しかった。
いなくなるのが寂しかった。
両親が忙しいから、余計にお兄ちゃんに執着してたんだ。
……あたしがお兄ちゃんに求めていたのは、多分そんな幼い願い。
あたしがお兄ちゃんに抱いていた感情は……恋に近かったけど、恋じゃなかったんだ。
それに、あたしは気付かなかった。
……ううん、気付きたくなかったのかもしれない。
それを認めたら、お兄ちゃんが一気に遠くなる気がしたから。
家族愛ってだけの関係じゃ、血の繋がらないあたしとお兄ちゃんは遠すぎる気がしたから……
だけど、そんな事なかったのに……
抱き締められた後、お兄ちゃんに軽く叩かれた頭からお兄ちゃんの心配してくれた気持ちが伝わってきて……
その時初めてその事に気付けた。
血なんか繋がっていなくても、お兄ちゃんはあたしを大切に想ってくれてるって。
大丈夫なんだって……そう、思えたんだ。
樹に話したら、『本当にはた迷惑な奴だな』って笑われるだろうな。
不意にそんな事を考えてしまって、胸が苦しくなった。
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