長い長い夜。

月明かりをこんな風に眩しく感じる事も今日が最後かと思うと余計に眠れなくて……隣で寝息を立てる樹の呼吸に、自分の呼吸を合わせた。

そのリズムを忘れないようにしたくて、何度も何度も樹に合わせて空気を吸い込んだ。


吸い込んだ空気が、樹の香りまであたしの体内に運んできて……苦しくなって息が出来ない。

たった3日でこんなに想いを膨らませてしまったなんて……本当にバカで呆れる。

しかも、即効で失恋なんて……そんなきついの、勘弁してよ。


ねぇ……


 ※※※



こんなにも朝が来て欲しくないって思ったのは、その日が初めてだった。

だけどどんなに願ったって、時間が止まるなんてありえなくて。

そんな事を願ってしまった自分に呆れてしまう。


「瑞希……今日帰るんだっけ?」


朝食を終えた樹があたしに聞く。

帰らないって言ったらどうするのかな、なんて一瞬だけ思って、そんな言葉をしまいこむ。


「うん」

「そっか。……オレ、これからネカフェ行くけどどうする?」

「あぁ、じゃあ一緒に出てちょっとだけ寄ってそのまま帰るよ」

「じゃ、行くか」

「うん」


あたし達にしては珍しく、憎まれ口を叩かないで終わった会話。

だけどそれを突っ込む事はしなかった。


ネカフェまでの10分間。

車の中をエンジン音だけが包み込む。


耳障りで腰が痛くなる最悪な車。

乗り心地も悪ければ、シートが低すぎて前の車のタイヤなんか見えないっていう使い勝手の悪い車。

それでも……樹が好きな車だと思うと、悪くないなんて思えてしまう。


認めたくなかったのに、恋心全開になっている自分に、あたしは大きなバックを抱き締める。

隣で運転する樹の顔が、どうしても見られなかった。


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