※※※



「……ねぇ、眠れないんだけど」

「知らねぇよ。あぁ、昔話でも話してやろうか。昔昔あるところにおじいさんとおばあさんがでかい桃を……なんだっけ?」

「違うよ、桃は川を流れてきたんだよ。ってゆうか、昔話とか別にいいし。子供扱いしないでよね」

「あんなビービー泣いてたくせに? しかも2日連続で。勘弁しろよな。この泣き虫が」

「……酔ったせいだってば」


同じベッドに横になりながらも、交わす会話は相変わらず。

恋人同士のピロートークなんてほど遠い。


あんだけ泣いてしまったあたしは多少気まずさを感じたりはしたけど……いつも通りに接してくれる樹のおかげで、減らず口は健在だった。

昨日あんなにさらけ出した本音も、樹は何も言わずにただ聞いてくれて……

行き先を見つけた言葉達が、あたしの中から飛び出していった。


おかげでやけにすっきりした頭と身体は冴えてしまって、眠りにつく事なんて忘れてしまったようだった。


「あたし御伽噺の方が好き」

「あぁ。御伽噺な。……って昔話とどこが違うんだよ」

「なんとなく御伽噺の方がロマンチック系なんじゃない?」

「なんだ? その曖昧基準」

「じゃあ姫系が御伽噺」

「明確にはなったけど……それ絶対間違ってるしな」


くだらないおしゃべりに付き合ってくれる樹に、また胸の奥がじんわりと暖かくなる。

なんでだろう。

樹は口も悪いし、あたしなんか相手にムキになったり……それなのに、いつも優しいんだ。

返ってくる憎まれ口にも、意地悪な笑顔にも、その全部に優しさを感じるんだ。


言葉になんか決してしないけど……すごくすごく暖かい甘やかしてくれる優しさを、樹は持ってる。


.