樹のその言葉に、あたしは自分の役割を思い出す。

そうだった。この麻衣ちゃんを負かさないといけないんだった。

……なんかもう負けてる気もするんだけど。


少し気おとりしたあたしは、もう一度気合を入れなおし、樹の隣に立つ。

すると、麻衣ちゃんの目がこっちに向けられて……思わず後ずさったあたしの腰を、樹が支えた。


「あ、妹さん?」

「……いえ、その……彼女だったり……?」


恐い……

恐いよ……誰か助けて。


麻衣ちゃんの目つきの色が変わる。

……ってゆうか、真っ黒な太すぎるアイメイクのせいでよく分からないんだけど、そんな雰囲気だった。

そして、その視線は樹へ。


「なんで?! 彼女って……麻衣ちゃんは遊びだったの?」

「いや、遊びっていうか……そんな関係じゃなかっただろ? ただ1回だけ一緒に帰っただけで……」

「違うよ! 1回だけじゃなくて、1回も、だよ!」


……1回も、ってなんだ、それ。

思わず笑みをこぼしたあたしに気付いた麻衣ちゃんの怒りの矛先があたしへと向かう。


それは樹に対する柔らかいものではなく……もう胸ぐらを掴まれてもおかしくなさそうな怒り。


「何がおかしいのよっ! いい? 椎名くんはね、麻衣ちゃんのものなんだから、横から手出さないでよね!」

「ってゆうか、横から手出したのは麻衣ちゃ……そっちでしょ? あたしは2年も前から樹と付き合ってるんだからっ」

「長さの問題じゃないのよっ 直感的な問題なの! 麻衣ちゃんは椎名くんと会った時、すごい運命を感じたんだからっ」

「そんなのあたしだってっ……いや、そこまでの運命は感じなかったけど、でもなんか波長が合うし。ってゆうか、そうゆう問題以前の問題でしょ?

あたしと樹は付き合ってるの! それを1回一緒に帰ったくらいで自分のものとか言われても訳分かんないんだけど。

もし一緒に帰った事が既成事実って言うなら、あたしなんかもう何百回って樹とエッチしてるし」


そこまで言うと、麻衣ちゃんの顔つきが変わった。

エッチの事を言ったのが気に入らなかったのか、すごい勢いで鼻息を吐いて……あたしに掴みかかってきた。


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